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高松高等裁判所 昭和61年(ラ)27号 決定

抗告人 浦田義数

右代理人弁護士 重哲郎

主文

原決定を取り消す。

西岡国広に対する売却は、これを許さない。

理由

(抗告の趣旨)

本件抗告の趣旨は、主文同旨の裁判を求めるというのであり、その理由は別紙抗告の理由書記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一  本件競売事件記録によれば、原裁判所は、香川県信用保証協会の根抵当権(債務者有限会社讃高開発、根抵当権設定者抗告人)に基づく申立てにより、昭和五八年九月二九日抗告人所有の原決定別紙物件目録(1)、(2)の各土地(以下あわせて「本件不動産」、個々の土地を「本件(1)土地」などという。)について競売開始決定をし、不動産鑑定士十川良秀を評価人に選任して本件不動産の評価を命じたところ、同人は本件(1)土地を一九四万七〇〇〇円、本件(2)土地を六万三〇〇〇円、一括して二〇一万円と評価したので、これに基づいて原裁判所は一括して売却に附することとし、その最低売却価額を二〇一万円と定めたこと、昭和五九年五月二一日の入札期日において、西岡国広は二〇五万円で最高価買い受けの申出をしたので、昭和六一年四月二二日の売却決定期日において、右申出による売却を許可する旨の原決定が言い渡されたこと、右十川の本件不動産に対する評価は、近隣地域の地価水準、各物件の個別的要因等を考慮して昭和五九年四月一四日の時点(以下「評価時点」という。)における各物件の一平方メートル当たりの価格を一〇〇〇円とし、これに本件各土地の面積を乗じて算出したものであることが認められる。

二  そこで、抗告人の主張にかんがみ、前記最低売却価額の決定に重大な誤りがあるか否かについて検討する。

民事執行法七一条六号の「最低売却価額の決定に……重大な誤りがある」というのは、評価人の評価及びこれに基づいて定められた最低売却価額が斟酌すべき事項を斟酌せず、斟酌すべきでないことを斟酌した等その額を不当とする合理的な根拠がある場合、または、その額が評価の基準に著しく反し、社会通念上不相当であると認められる場合をいい、単に低廉であるというだけではこれに当たらないと解するのが相当である。もっとも、右評価額が時価に比して著しく低廉である場合には、例外的に違法性を帯びるものと解される。

本件競売事件の記録、抗告人提出の角山環境センターのパンフレット、弁護士法二三条の二に基づく照会に対する回答書、覚書及び買収予定価格証明書によると、本件土地は国鉄坂出駅の西南西方約一・三キロメートルに位置し、標高約五〇メートル、平均斜度一〇ないし二〇度、角山の北斜面に当たる雑木自然林地域であること、前記十川の昭和五九年四月一四日付評価書(以下「十川評価」という。)は、近隣地域の地価水準、各個別的要因等を考慮して本件不動産の評価額を算出したものであるが、その前提とする具体的な近隣地域の地価及び個別的要因については、なんら具体的説明はないこと、本件不動産の近隣に坂出、宇多津広域行政事務組合の角山環境センター(ゴミ焼却場)が昭和五八年頃から昭和六〇年頃にかけて建設されているが、その敷地買収平均価額は、一平方メートル当たり畑、宅地は各一万二一〇〇円、山林、雑種地は各九一〇〇円となっていること、また本件(1)土地の一部二二六・六四平方メートルを市道新設用地として買収するにつき、坂出市と抗告人との間で昭和六〇年一二月一〇日締結した覚書によれば、右土地の買収予定価額を一平方メートル当たり一万円とする合意が成立していることが認められる。

右認定によると、十川評価の評価額は評価に際し斟酌すべき近隣土地の取引事例及び時価を斟酌せずなされたものとみざるを得ず、その評価額も時価に比して著しく低廉であると認められる。

三  よって、十川評価に基づいてなされた本件最低売却価額の決定には、重大な誤りがあるというべきであるから、原決定を取り消し、西岡国広に対する売却を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高田政彦 裁判官 早井博昭 鴨井孝之)

〈以下省略〉

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